貧乏だった頃
当時、私は四畳半一間のアパートで一人暮らしをしておりまして、そのアパートにはほとんど寝るために帰っただけでした。フローリングの上には一人用のソファー一つ、そこで寝てたんです。テレビやビレオデッキはありましたが、肝心のビデオテープがない。そんなもの観てる暇もなかったんです。同じくステレオはありましたが、かけるCDもありません。ほとんど部屋なんて呼べないですね。でも、そこへ彼女が転がり込んできたのです。彼女は物臭な私とは違い、ビデオテープもCDも、ちゃんと用意してました。私の部屋はいきなり明るくなりました。食事にしても彼女はよく自分で作ってましたね。さすが女性。万年コンビニ弁当の私とは大違いです。仕事を終えて私がアパートに帰ると、同じく仕事帰りの彼女がシャワーを浴びてる。始めは私も、こんなんでいいのかな、って思ってたんですが、ズルズルと日がたつにつれ、もうどうでもよくなっちゃった。今、この時間が楽しければそれでいい、と思ってたんです。私たちの同棲生活はこうして始まったんですね。当時、よく人から言われましたよ。「あんたたち、なんかオママゴトしてるみたい」と。ちょっと失礼だな、なんて思いましたが、なかなかどうして、この言葉がピンとくるから悔しかった。その時の私たちは、将来の事などまったく頭になかったんですから。それはまるで子供たちが夢中になる「オママゴト」に他なりません。当時、彼女はある経営コンサルタント会社の社長秘書をしておりまして、これまた仕事が忙しい。私と同じくらい、自由な時間よりも働いている時間の方が長い。まあ、時代もまだバブル経済でしたから、仕事は有り余るほどあったんですね。懐かしい限りです。ですから朝、アパートを出るときはいつも一緒でして、帰ってくる時間も同じくらい。そんで週一の休みの日だけは二人で外に出て一日遊ぶといった感じでしたね。それでも充分に楽しかったですが。